NTT株式会社とOptQC株式会社は2026年8月3日、誤り耐性を備えた100万量子ビット級光量子コンピュータの実用化に向け、新たに資本業務提携契約および2027年度までの共同研究契約を締結したと発表しました。両社は2030年度までの実用化を目指し、研究開発からユースケース開拓、サプライチェーン構築、社会実装までを一体となって推進します。
2025年11月に締結された連携協定から一歩踏み出し、NTTによるOptQCへの出資を伴う強固な体制へと発展した今回の発表。国内の量子コンピュータ開発および産業活用における大きなマイルストーンとなる本提携のポイントと、提示されたロードマップを詳しく解説します。
提携の背景:2025年11月の連携協定から「実用化・社会実装」フェーズへ
金融領域でのリスク分析、製造・物流の最適化、創薬、新材料開発、AIの高度化など、従来のスーパーコンピュータでは困難な課題を解決する手段として、量子コンピュータへの世界的な期待が高まっています。なかでも「光量子コンピュータ」は、光通信技術との親和性が高く、常温動作の可能性や室温でのスケーラビリティ、省電力性に優れることから、次世代の計算基盤として大きな注目を集めています。
NTTとOptQCは2025年11月に連携協定を締結して以来、100万量子ビット級システムの実現に向けた検討を重ねてきました。この間にも、両社を取り巻く環境は大きく進展しています。
- NTT:厚木研究開発センタに「光量子コンピュータ研究開発拠点」を設立。光通信やIOWN構想で培った光技術を注入。
- OptQC:産総研の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)にて、国産光量子コンピュータ1号機「MoQuren(モクレン)」の稼働を開始。
- 共同成果:研究チームとして、光量子コンピュータの性能向上に不可欠な「世界最高品質の量子光源」の実現に成功。
今回の資本業務提携は、これまでの技術検討・研究フェーズから、「事業化・ユースケース創出・サプライチェーン構築」まで見据えた実用的社会実装フェーズへと移行することを意味しています。
共同研究の技術的アプローチ:FTQCと100万量子ビットへの挑戦
今回の発表に伴い、両社は第一弾として2027年度までの共同研究契約を締結しました。目標は「誤り耐性を備えた100万量子ビット級システム」に必要なアーキテクチャおよび主要要素技術の設計完了です。
| 研究開発テーマ | 概要・狙い |
|---|---|
| 波長多重技術を活用した量子ビット拡大 | NTTの光通信技術(光増幅・光多重化)を応用し、大容量の量子状態を効率的に制御・多重化する。 |
| 誤り耐性(FTQC)の設計 | ノイズに弱い量子状態の誤りを検知・訂正する「Fault-Tolerant Quantum Computing」を光方式で確立する。 |
| 100万量子ビット級アーキテクチャ | 大規模計算を実現するためのシステム全体構造(ハードウェア・制御系)を設計する。 |
東京大学における25年以上の研究を基盤とするOptQCの光量子技術と、NTTが長年蓄積してきた光通信・ネットワーク・データセンター・IOWN分野の知見を融合させることで、理論から実用機へのブレイクスルーを加速させます。
2030年に向けたロードマップ:実機のPoCから社会実装まで
今回の発表で特に注目されるのが、2030年度までの具体的かつ段階的な「技術ロードマップ」と「ビジネスロードマップ」です。
【ビジネス・技術ロードマップの概要】
- 2026年度:ユーザー企業や研究機関との共創を開始(ユースケース開拓のスタート)
- 2027年度:
- 【技術】100万量子ビット級のシステムアーキテクチャ設計完了
- 【技術】実用的な1万量子ビット級光量子コンピュータの実現
- 【ビジネス】実用化に向けたサプライチェーン構築に着手
- 2028年度:1万量子ビット級の実機を用いたユーザーPoC(概念実証)および実機検証を開始
- 2029年度:光量子と古典コンピュータを統合活用するソフトウェア基盤の開発、アプリ検証の拡大
- 2030年度:誤り耐性を備えた100万量子ビット級光量子コンピュータの実現・社会実装
単に技術開発の完了を待つのではなく、2026年度から産業界(金融・化学・製造・エネルギー等)を巻き込んだユースケース創出を先行させ、2028年度には1万量子ビット級実機でのPoCを行うという現実的かつスピーディーな計画が示されています。
両社トップのコメント
「NTTは、培ってきた光通信技術、ネットワーク、データセンタ、IOWNの知見を基盤に、OptQCとの提携を通じて研究開発から事業化、社会実装まで一体的に推進します。日本発の光量子コンピュータ技術を世界へ展開し、新たな価値創出に貢献します。」NTT株式会社 代表取締役社長 CEO 島田 明 氏
「東京大学での25年にわたる研究基盤と、NTTの光通信分野の知見を融合することで、誤り耐性を備えた100万量子ビット級の実現を大きく前進させられると確信しています。2030年度の目標に向けて着実に歩みを進めてまいります。」OptQC株式会社 代表取締役 CEO 高瀬 寛 氏
Quantum Plus 編集部の視点:ディープテックエコシステムへの影響
今回のNTTによるOptQCへの出資・提携強化は、日本の量子技術エコシステムにおいて極めて重要な意味を持ちます。
1つ目は、「アカデミア発スタートアップ×大手通信インフラ企業」による社会実装モデルの確立です。大学研究由来の高度な量子物理ロジックに、NTTの光実装・製造・通信インフラの現場知見が合体することで、「実験室の成果」から「社会で動く計算基盤」への転換が強く期待されます。
2つ目は、産業界(ユーザー企業)側における量子人材・事業開発の加速です。2028年度に1万量子ビット級の実機PoCが予定されたことで、金融・製薬・製造などの大手企業にとっても「量子活用」が現実的な中長期プロジェクトとして動き出すことになります。
Quantum Plusでは、今後もNTTとOptQCによる共同研究の進展や、2026年度から始まるユースケース創出の動向を追ってまいります。