メインコンテンツへスキップ
プロジェクトリサーチ 7分で読める

量子の特許シェアを国別で読む|米27%・日本14%の意味【連載第2回】

Quantum Plus 編集部
Quantum Plus 編集部 量子技術専門メディア

連載「量子立国ニッポンを読む」第2回のテーマは、特許です。「特許の話なんて地味」と思うかもしれません。でも、特許は各国・各企業が「どこに本気で投資してきたか」の答え合わせ。お金と頭脳を何年も注いだ結果が、数字になって表れます。今回は内閣府資料に載った特許データから、量子をめぐる世界の勢力図を読み解きます。日本の本当の強みと弱みが、ここでくっきり見えてきます。

※この連載は、内閣府「量子エコシステム構築に向けた推進方策」(R8.1.30 資料4)を参考情報として読み解くものです。特許データの出典はMcKinsey「Quantum Technology Monitor 2025」およびOrbit intelligence等とされています。

資料が言っていること:米国と日本がリードする

まず全体像から。量子技術全般の特許取得実績で世界をリードしているのは米国(約27%)、そして日本(約14%)が第2位です。これにドイツ、フランス、中国が続きます。件数で見ると、米国が約1万8,600件、日本が約9,400件、ドイツが約8,500件、中国が約7,600件、フランスが約7,200件、という順です。

もうひとつ資料が指摘しているのが、分野による偏りです。量子技術全体の中では量子コンピュータの特許が多く、量子センシングは少ない。そして量子通信の分野では、中国が世界2位につけていて、近年の伸びが目立つ——とされています。

背景:特許シェアは「過去の投資」の影

数字を読む前に、ひとつ前提を共有させてください。特許シェアは「今この瞬間の実力」そのものではなく、これまでの研究投資が積み上がった結果です。特許は出願から登録まで時間がかかるので、いわば「数年前までの本気度の影」が映っている。

だから米国がトップなのは、IBMやGoogleが早くから巨額を投じてきた歴史の反映ですし、中国が量子通信で急伸しているのは、国家として通信分野に集中投資してきた近年の動きが表れ始めた、ということです。特許は派手な発表より正直で、「言っているか」ではなく「やってきたか」を映す。だから読む価値があります。

読み解き①:日本2位は「強い」のか「これから」なのか

「日本は世界2位」と聞くと頼もしいですが、内訳を見ると話はもう少し立体的です。

量子コンピュータの特許では、日本は米国・ドイツに迫る件数を持っています。一方で量子通信では中国に抜かれて存在感がやや薄く、量子センシングは件数自体が世界的に少ない領域です。つまり日本の2位は「全方位で2位」ではなく、コンピュータで稼いだ2位という色合いが強い。

ここに戦略的な示唆があります。通信は中国が伸ばしているが、日本はQKD(量子鍵配送)装置の実装で世界トップという別の強みを持つ(第8回・第9回で深掘りします)。センシングは件数こそ少ないものの、実は登録特許数で日本は世界2位という、また違う顔を持っています。「特許の量」と「実装・製品の強さ」は別物——この視点を持っておくと、勢力図の見え方が変わります。

読み解き②:技術方式ごとに「主役企業」が違う

資料は、量子コンピュータをさらに方式ごとに分解して、特許の傾向を見せています。これがとても示唆的なので、かみくだいて紹介します。

方式累計特許で目立つプレイヤー日本勢の位置
超電導IBM が突出、中国勢やBAIDUも富士通が一角に
イオントラップIONQ、Quantinuum
中性原子Atom Computing、Pasqal
電子スピン/シリコン欧米勢日立が存在感
ダイヤモンド調査対象国では特許なし
光量子PSIQUANTUMNTTが一角に
アニーリングD-WAVE富士通・NEC・日立・NTT・東芝と日本勢がずらり

注目してほしいのは一番下、アニーリング方式の日本勢の厚さです。富士通・NEC・日立・NTT・東芝と、名だたる日本企業が並びます。アニーリングは「組み合わせ最適化」に特化した方式で、汎用のゲート方式とは別の土俵。ここで日本は明確に層が厚い。一方、世界の主流になりつつある超電導ゲート方式では、IBMが圧倒的で、日本は富士通が踏ん張っている、という構図です。

つまり日本は、「全方式で勝つ」のではなく、勝てる方式に強い企業群がいる。どの方式に張るかで、関わる企業も求められるスキルも変わる——これはキャリアを考えるうえで、地味に重要なポイントです。

読み解き③:ダイヤモンド方式の「空白」が意味すること

表の中で目を引くのが、ダイヤモンド方式の「調査対象国では特許なし」という記述です。これは「誰もやっていない=ダメな技術」という意味ではありません。むしろまだ誰も陣地を取っていない空白地帯、という読み方ができます。

ダイヤモンド中のNVセンターという仕組みは、実は量子センシング(第10回で扱います)で日本が強い領域。コンピュータ方式としては未開拓でも、関連技術の蓄積はある。空白は、後発が一気に陣地を取りにいける場所でもある。特許の地図は、強い場所だけでなく「狙い目の余白」も教えてくれます。

ここまで各国・各方式の勢力を見てきましたが、あなたはどの方式・どの企業に興味を持ちましたか。その直感は、次回以降でさらに解像度が上がります。

産業とキャリアへの含意:勢力図は「求人地図」でもある

特許の勢力図を、転職の視点で読み替えるとこうなります。

特許を多く持つ企業・方式は、それだけ長く投資を続けている=採用も継続的である可能性が高い。たとえば超電導の富士通、シリコンの日立、光量子のNTT、アニーリングの日本企業群は、いずれも量子人材を継続的に求めているプレイヤーです。「どの会社が量子に本気か」を知りたいなら、特許の地図は有力なヒントになります。

同時に、方式によって求められる素養が違うことも見えてきます。超電導なら低温・電子回路、光量子なら光学・フォトニクス、シリコンなら半導体——あなたの今の専門と相性のいい方式を選ぶのが、量子転職の賢いやり方です。「量子に行きたい」ではなく「自分の強みが活きる方式はどれか」で考えると、ぐっと現実的になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 量子分野の特許で世界1位はどこですか?

量子技術全般の特許取得実績で世界をリードしているのは米国(約27%)で、日本が第2位(約14%)です。ドイツ、フランス、中国が続きます(出典:内閣府資料、McKinsey等)。

Q. 日本はどの分野・方式で強いのですか?

量子コンピュータでは超電導で富士通、シリコンで日立、光量子でNTTが存在感を持ち、特にアニーリング方式では富士通・NEC・日立・NTT・東芝と日本勢が厚い層を形成しています。量子センサの登録特許でも日本は世界2位です。

Q. 特許が多い企業を狙えば転職に有利ですか?

特許を多く持つ企業は投資を長く続けており、採用が継続的な傾向があります。ただし方式によって必要なスキルが異なるため、自分の専門と相性のよい方式・企業を選ぶことが重要です。

まとめ

第2回で見えたのは、量子の特許勢力図が「米国トップ・日本2位」という一行では語れない、立体的な地図だということでした。日本はコンピュータで稼いだ2位であり、通信では中国に追われ、しかしセンシングや実装では別の強みを持つ。方式ごとに主役企業が違い、空白地帯もある。

この地図は、そのまま「どの企業が量子に本気か」「自分の専門がどの方式に合うか」という求人地図として読めます。次回・第3回は、その方式そのものに踏み込みます。超伝導・イオントラップ・光・シリコン・冷却原子——5つの方式が覇権を争う「方式バトル」を、転職目線で解説します。自分に合いそうな方式を探しながら読んでみてください。

出典・引用元

内閣府「量子エコシステム構築に向けた推進方策」(量子技術イノベーション会議 R7.5.30/内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 資料4 R8.1.30)

内閣府 > 内閣府共通検索 | 検索キーワード:量子エコシステム

内閣府共通検索で「量子エコシステム」関連資料を見る

Share this article コピーしました
WRITTEN BY

Quantum Plus 編集部

量子技術専門メディア

Quantum Plus 編集部は、量子コンピューティング・量子通信・量子センシングの最新動向をわかりやすくお届けする専門メディアチームです。業界経験豊富な編集者とリサーチャーが、信頼性の高い情報を厳選してお届けします。

量子コンピューティング・量子通信・ディープテック領域のキャリアに興味がありますか?

業界特化メディアを運営する専門エージェントが、企業のカルチャー・技術スタック・選考ポイントまで踏まえてキャリアをご提案します。相談は完全無料です。