日本の量子コンピュータ開発は、研究段階の話だと受け止められがちです。実際には国産機がすでに複数稼働し、大規模化の局面に入っています。連載第4回では、内閣府資料をもとに、理研・富士通・大阪大学による国産機の系譜と、2030年に向けた各社の構想を追います。開発主体がどこに広がっているのかを把握すると、採用がどの組織で生まれているのかも見えてきます。
※本連載は内閣府「量子エコシステム構築に向けた推進方策」(R8.1.30 資料4)を参考情報として読み解くものです。事実部分の出典は同資料に拠ります。
国産機は2023年に出そろい、すでに大規模化の局面にある
超伝導型の国産機は、2023年に相次いで稼働しました。最初に登場したのが理研の国産1号機(2023年3月、64量子ビット)、続いて富士通の2号機(2023年10月、64量子ビット)、大阪大学の3号機(2023年12月、64量子ビット)です。いずれも64量子ビットからの出発でした。
その後、規模は着実に拡大しています。富士通は2025年4月に256量子ビット機へと進め、理研は2025年度中に144量子ビット機の公開を予定しています。64量子ビットでそろった国産機が、わずか数年で数百量子ビットの規模に向かっている点は、開発が研究の枠を越えて動いていることを示しています。
方式ごとに、2030年の目標が掲げられている
注目すべきは、各主体が2030年前後の具体的な目標を公表していることです。方式によって目標規模は大きく異なります。
| 方式 | 主体 | 公表されている目標 |
|---|---|---|
| 超伝導 | 富士通 | 2030年に1万量子ビット機の実現に向けた研究開発を開始 |
| 光 | NTT × OptQC(東大・古澤研発) | 2030年に100万量子ビット機の実現に向け共同研究開発を開始 |
| シリコン | 日立 | 2030年までに1000量子ビット機の実現に向け研究開発を開始。理研・imec(ベルギー)と連携 |
目標規模の差は、方式ごとの設計思想の違いを反映しています。光方式が100万量子ビットという桁を掲げる一方、超伝導は1万量子ビット、シリコンは1000量子ビットと、到達点の置き方が異なります。数字の大小だけで優劣は判断できませんが、各主体が長期の到達目標を明示している点は、研究の継続性という観点で重要です。
開発主体は大企業にとどまらず、スタートアップにも広がっている
国産の量子コンピュータ開発は、大企業と研究機関だけのものではありません。資料は、コンポーネントやソフトウェアの領域で活動するスタートアップも挙げています。
コンポーネント領域では、早稲田大学発のNanoQTが国内初の量子コンピュータ開発スタートアップとして、中性原子型の接続システムを手がけ、メリーランド大学にも開発拠点を持ちます。ソフトウェア領域では、QunaSysが素材・化学・製薬分野の量子アルゴリズム開発に取り組み、大阪大学の藤井教授と連携し、デンマークにも拠点を構えています。光方式のOptQCは東京大学・古澤研究室を出自とし、NTTと組んで大規模化に挑んでいます。
こうした主体の広がりは、量子コンピュータ開発が「一部の大企業の研究所」から「大企業・研究機関・スタートアップが並走するエコシステム」へ移っていることを示しています。
研究機関・大企業・スタートアップで、働き方は大きく異なる
ここからは、当社が量子・DeepTech領域の求人を扱う立場からの観察を加えます。同じ「量子コンピュータの仕事」でも、所属する組織の種類によって、得られる経験と働き方は大きく変わります。
理研や大学などの研究機関は、基礎に近いテーマに腰を据えて取り組める一方、ポジションは公募中心で数が限られます。富士通・NTT・日立といった大企業は、研究リソースと事業基盤が安定しており、長期的な開発に関われます。スタートアップは裁量が大きく、製品化に近い実装やユースケース開拓に直接携われますが、組織体制は発展途上です。どの環境を選ぶかは、安定を重視するか、裁量と成長機会を重視するかという、個々の優先順位によります。
採用主体が複数の層に分散していることは、転職者にとって選択肢が広いことを意味します。研究職に限らず、開発・実装・事業開発など、組織ごとに異なる入り口が存在します。
よくある質問(FAQ)
日本の国産量子コンピュータは何号機まであるのですか?
超伝導型では、国産1号機が理研(2023年3月、64量子ビット)、2号機が富士通(2023年10月、64量子ビット、のち2025年4月に256量子ビット)、3号機が大阪大学(2023年12月、64量子ビット)です。理研は2025年度中に144量子ビット機の公開を予定しています。
日本企業の2030年目標はどのようなものですか?
富士通が超伝導で1万量子ビット機、NTTとOptQCが光で100万量子ビット機、日立がシリコンで1000量子ビット機を、いずれも2030年前後の目標として研究開発を進めています。
量子コンピュータの開発に関われるのは大企業だけですか?
いいえ。大企業・研究機関に加え、NanoQT、OptQC、QunaSysなどのスタートアップも開発主体として活動しており、組織ごとに異なる入り口があります。
まとめ
日本の量子コンピュータは2023年に国産機が出そろい、数年で数百量子ビット規模へと拡大し、2030年に向けた長期目標も方式ごとに掲げられています。開発主体は大企業・研究機関・スタートアップに分散し、採用の機会もそれぞれの層に存在します。所属する組織の種類によって働き方が異なるため、自分の優先順位に照らして選ぶことが現実的です。
次回・第5回は、量子コンピュータを支えながらも表に出にくい「サプライチェーン」に焦点を当てます。ハードウェアで世界トップの米国でさえ一部の部素材を海外に依存している構図と、そこに見える日本の強みを読み解きます。
出典・引用元
内閣府「量子エコシステム構築に向けた推進方策」(量子技術イノベーション会議 R7.5.30/内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 資料4 R8.1.30)
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