三菱電機株式会社は2026年9月17日、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、量子コンピュータ関連の2つの研究開発プロジェクトが採択されたことを発表しました。
本採択を受け、三菱電機は量子コンピュータが実用化を迎える上で最大の障壁となっている「大規模化(100万量子ビット級)」に向けた制御システムおよび核心コンポーネントの研究開発を本格的にスタートします。
量子コンピュータ大規模化の壁と「100万量子ビット」がもたらす革新
医療・創薬、金融、物流、エネルギー領域において、量子コンピュータが従来のスーパーコンピュータを超える圧倒的な計算能力(量子優位性)を示すためには、処理能力と計算精度を劇的に高める必要があります。
しかし、計算の最小単位である「量子ビット」は外部からの環境ノイズに非常に弱く、計算過程で生じるエラーを自動補正(量子エラー訂正)しながら高度な計算を実行するには、数十万〜100万規模の物理量子ビットを安定して制御する技術(FTQC:誤り耐性型量子計算)の確立が絶対に欠かせません。
今回のNEDO事業を通じ、三菱電機は「中性原子型」「イオントラップ型」「超伝導型」という現在主流の多様なハードウェア方式に対し、それぞれの大規模化に不可欠なシステム基盤を提供していきます。
採択された2つの研究開発プロジェクト
今回、三菱電機が主導する2つの技術開発プロジェクトの概要と具体的なアプローチは以下の通りです。
1. 多量子ビット制御レーザーシステムの研究開発
レーザー光を用いて原子やイオンを捕獲・操作する「中性原子型」および「イオントラップ型」量子コンピュータ向けの研究開発です。
- 開発目標: 大規模化に不可欠な、高出力かつ極めて安定した制御レーザーシステムの構築
- 同社の強み: 三菱電機が産業用機器で長年培ってきた「加工機用レーザー技術」や、FPGAを活用した超低遅延制御技術を応用
- 体制: 三菱電機(代表機関)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)ほか(協力機関)
2. 大規模超伝導量子コンピュータのための超小型多連低雑音増幅器モジュール開発
極低温環境下でマイクロ波を用いて量子ビットを制御する「超伝導型」量子コンピュータ向けの研究開発です。
- 開発目標: 量子ビット数の増加に伴い急増する冷却器内の配線・ノイズ問題を解決する、極低温対応の超小型多連低雑音増幅器モジュールの開発
- 同社の強み: 通信事業や防衛・宇宙分野で研鑽を重ねた高周波「マイクロ波IC技術」を注入
- 体制: 三菱電機(代表機関)、産総研ほか(共同研究機関)
要素技術の強みを活かし、複数の量子エコシステムへ横断的に貢献
量子コンピュータのハードウェア領域では現在、さまざまな方式が並行して進化を続けています。三菱電機は、特定のハードウェア方式だけに絞り込むのではなく、自社が持つ強み(レーザー制御、低遅延回路設計、マイクロ波技術)を活かせる「重要コンポーネント」の提供者としてアプローチする戦略をとっています。
国内屈指の研究機関である産総研との強力な連携により、最先端の検証環境のもとで実用化に向けた実証実験を迅速に進めていく方針です。
ロードマップと将来展望:2030年代、そして2040年以降の未来へ
三菱電機は国内外の研究機関との提携を深め、2030年代に見込まれる100万量子ビット級量子コンピュータの実現と産業応用へ貢献することを掲げています。
さらに2040年以降には、大規模データセンターや次世代AIインフラにおける量子コンピュータの活用拡大を見据え、さらなる高密度化・高精度化の技術開発を進めていく計画です。日本の総合電機メーカー大手がハードウェア基盤のキープレイヤーとして参入することで、量子産業エコシステムの形成と実用化の加速が期待されます。
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