メインコンテンツへスキップ
PR TIMES 5分で読める

NTTと立命館大、分散型量子コンピュータの設計を加速する新計算法を開発

Quantum Plus 編集部
Quantum Plus 編集部 量子技術専門メディア

NTT株式会社(以下、NTT)は2026年10月15日、立命館大学理工学部の大坂博幸教授との共同研究において、分散型量子コンピュータの実現に向けた重要課題である「チップ間量子操作の成功確率限界」を高精度かつ高速に算出する新しい計算手法を開発したと発表しました。

数学の高度な分野である「代数幾何」を応用することで、従来の課題であった計算時間の長さや精度の低さを大幅に改善。従来の計算方法と比較して10倍以上の高精度化と100倍以上の高速化を実現しました。この成果は、光量子方式をはじめとする多様な量子コンピュータの大規模化や、高品質なチップ設計を導く新たな指針として期待されています。

本研究成果は、国際的な数学物理学誌『Letters in Mathematical Physics』に掲載されました。


背景:大規模量子コンピュータ構築における「冷却」と「ノイズ」の壁

創薬や新材料の開発、高度な最適化問題など、現代のスパコンでは解くことが困難な領域を切り拓く技術として期待される量子コンピュータ。その実用化には、取り扱える「量子ビット」の数を劇的に増やす「大規模化」が不可欠です。

しかし、現在主流の量子チップでは、量子ビットの安定した状態を維持するために極低温まで冷却する巨大な冷凍装置が必要です。このため、1つの物理チップ上に搭載できる量子ビット数には物理的な制限が存在します。

この物理的な制約を打破する方法として注目されているのが、複数の量子チップをネットワークでつなぎ、全体で1つの巨大なコンピュータとして機能させる「分散型アーキテクチャ」です。

分散型アーキテクチャの課題

  • 量子もつれの品質低下: 離れたチップ同士をつなぐ処理(チップ間量子ゲート)には「量子もつれ」を利用しますが、実際の通信やデバイス環境にはノイズが存在し、品質が低下します。
  • 成功確率の低下: ノイズを含む量子もつれを使うと操作の成功確率が下がり、計算全体の精度低下や再試行コストの増大につながります。
  • 評価手法の不足: これまでは「どの程度の品質の量子もつれがあれば、どのくらいの確率で処理が成功するのか(限界曲線)」を広範な条件で効率よく計算する汎用的な手法が存在しませんでした。

研究の成果:代数幾何を活用した「最適化問題の効率的分解」

NTTと立命館大学の研究グループは、この課題に対して数学の分野である「代数幾何(Algebraic Geometry)」の考え方を導入することで解決を図りました。

【本研究における技術的ポイント】

1. 探索空間の分解(代数幾何の応用)
無数に存在するチップ間操作の手順や候補(探索空間)を数学的に分解し、扱いやすい小さな問題要素へ整理。

2. 各要素の個別・段階的探索
小問題ごとに段階的に精度を高めながら探索を行うことで、全体を一括処理していた従来法に比べ、圧倒的な高速化と高精度化を実現。

▲技術的ポイント、従来との比較(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000181531.html)

実現されたブレイクスルー

  1. 従来比で精度10倍以上・速度100倍以上:
    広範囲なノイズ条件やチップ構成、操作手順に対して、性能限界のカーブ(限界曲線)を素早く正確に特定できるようになりました。
  2. 最高品質の必要性を理論証明:
    チップ間をまたぐ幅広い量子操作において、「成功確率を100%にするためには最高品質の量子もつれが不可欠である」ことを学術的に統一拡張して証明しました。

今後の展望とビジネス・産業への影響

今回の研究成果は、分散型量子コンピュータの設計・開発プロセスを大きく変革する可能性を秘めています。

  • 無駄のないチップ設計の実現:
    目標とする計算性能を達成するために「どのようなチップ配置が必要か」「どの程度のノイズ耐性を持たせるべきか」を事前にシミュレーションで見積もることが可能になります。
  • 光量子コンピュータへの応用:
    常温動作や省電力化で期待される光量子方式など、測定ベースの量子計算モデルにおける性能評価ツールとしても期待されています。
  • 計算資源のコスト削減:
    チップ間処理の失敗や再試行の発生頻度を抑える設計指針が得られるため、将来的な量子クラウドサービスや実用化における運用効率を高めます。

NTTは今後、本理論に基づいた最適手順を実際の量子デバイス上で検証し、実験面からもその有効性を実証していく計画です。


論文・発表情報

  • 掲載誌: Letters in Mathematical Physics
  • 論文タイトル: Optimizing entanglement manipulation via algebraic–geometric decompositions and semi-definite programming hierarchies
  • 著者: Seiseki Akibue, Jisho Miyazaki & Hiroyuki Osaka
  • DOI: 10.1007/s11005-026-02138-9

出典:PR TIMES プレスリリース(2026年10月15日配信)

Share this article コピーしました
WRITTEN BY

Quantum Plus 編集部

量子技術専門メディア

Quantum Plus 編集部は、量子コンピューティング・量子通信・量子センシングの最新動向をわかりやすくお届けする専門メディアチームです。業界経験豊富な編集者とリサーチャーが、信頼性の高い情報を厳選してお届けします。

量子コンピューティング・量子通信・ディープテック領域のキャリアに興味がありますか?

業界特化メディアを運営する専門エージェントが、企業のカルチャー・技術スタック・選考ポイントまで踏まえてキャリアをご提案します。相談は完全無料です。