2026年10月8日、NTTドコモビジネス株式会社と量子開発プラットフォームを手掛けるクラシック・テクノロジーズ合同会社(Classiq)は、産業分野における量子コンピューティングの普及促進に向けた戦略的業務提携の基本合意書を締結したことを発表しました。
研究段階から「具体的な事業活用」へと移行しつつある量子技術ですが、企業の現場では「開発の難しさ」が大きな壁となっていました。今回の提携により、両社は量子ソフトウェア技術と社会実装力を掛け合わせ、企業のビジネス課題解決に向けたユースケース創出を本格化させます。
提携の背景:普及を阻む「量子回路設計の壁」と人材不足
近年、材料開発や創薬、金融のポートフォリオ最適化、物流・ネットワークの最適化といった領域において、量子コンピューティングへの注目が急増しています。日本国内でもゲート型量子コンピューターがクラウド経由で利用可能となり、企業の実用化に向けた検討が熱を帯びています。
しかし、実際の現場では以下のような根深い課題が存在していました。
- 高度な専門性の要求:量子アルゴリズムの実装には、量子ビットの重ね合わせや量子もつれなどの専門知識が必要で、従来のマニュアル作業による回路設計は極めて難易度が高い。
- ハードウェア依存と移植性の低さ:超伝導、イオントラップ、中性原子、光方式など、マシンごとに仕様が異なるため、機種に応じた個別設計・最適化が必要。
こうした「専門人材の不足」と「開発プロセスの複雑さ」が、企業の量子活用を踏みとどまらせる大きな要因となっていました。
Classiqのプラットフォームがもたらすブレイクスルー
この開発の壁を打ち破るのが、Classiqが提供する量子開発プラットフォーム(Classiqプラットフォーム)です。
Classiqの強みは、独自開発の高水準モデリング言語「Qmod」と自動生成エンジン「Synthesis」にあります。Qmodを用いることで、開発者は量子力学の深遠な専門知識がなくとも、高い抽象度でアルゴリズムを記述することが可能です。Synthesisエンジンが、設定された制約条件やターゲット端末に応じて最適化された量子回路を自動合成します。
Classiqプラットフォームの主なメリット:
- AI・データサイエンティストの参入を容易に:機械学習や線形代数の知識を持つエンジニアがそのまま量子開発に取り組める。
- マルチハードウェア対応(ベンダーロックインの回避):同一のアルゴリズム記述から、超伝導・中性原子・イオントラップ・光方式など様々な量子ハードウェアやシミュレーターへの出力が可能。アセットを保護しながら最適な実行環境を選べる。
両社の役割分担と協業のシナジー
今回の戦略的業務提携により、両社は相互の強みを活かした共同提案活動を行っていきます。
| 企業名 | 主な役割・提供価値 |
|---|---|
| NTTドコモビジネス | ・Classiqプラットフォームの提案および販売 ・製造、金融、物流、公共分野などにおけるユースケース創出と実証の推進 ・ネットワークやAI基盤運用で培った先端技術の社会実装力 |
| Classiq | ・Classiqプラットフォームの提供 ・量子アルゴリズムおよびソフトウェア技術に関する専門知見・技術支援の提供 |
NTTドコモビジネスはこれまでにも、広域量子暗号通信ネットワーク(QKD)の構築や耐量子計算機暗号(PQC)の開発など、量子時代を見据えたセキュリティインフラの整備を先導してきました。今回、ソフトウェア・アプリケーションレイヤーで強みを持つClassiqとタッグを組むことで、企業の事業課題をエンド・ツー・エンドで解決する体制が整います。
今後の展望:研究から「事業成果を生む技術」へ
両社は今後、製造、金融、物流、公共をはじめとする幅広い業界の企業との対話を通じて、量子コンピューティングの導入効果が高い業務領域を特定し、実効性の高いユースケースの創出と実証実験を進めていくとしています。
単なる基礎研究や技術検証(PoC)にとどまらず、企業が具体的な事業成果(ROI)を出せるテクノロジーとして社会へ定着させることができるか。国内の量子ビジネス活用を大きく前進させる取り組みとして、今後の動向に注目が集まります。